ジェームズは、卒業と同時に結婚することが決まっている。
 婚約者はリリー・エヴァンズ。
 輝く赤い髪の魔女。



 誰もがその婚約を祝福し、また拡大する闇の勢力に屈せず幸せを築く彼らを讃えた。
 その知らせは、冷え冷えとした夜空に閃光を残す流れ星のようだった。眩いばかりの光を背負った若者の愛が成就するのをきっかけに、世界が平和になるようにと皆がこぞって祈りを込めた。
 流れ星も一瞬の後には消えてしまうことを誰もが忘れたがっていた。
 本人だけが自分の行く道を知っていた。










 セブルスの体を押さえ付けるように両腕で上半身を支えながら、夜に見せる特有の真剣な表情を、ジェームズはした。筋は強張り、榛色の眼だけが湖のように深い。 「僕は、リリーを愛しているよ」
 真摯な声がセブルスの鼻梁に落ちる。セブルスは呼吸するようにその言葉を自らに沈める。
「……知っている」
 見上げたまま、静かな声音で応える。二対の瞳孔は互いに重なりあってぴたりともずれない。
 上半身を支える腕を折り、けれどジェームズの視線は捕らえて捕らえられて、真黒いセブルスの瞳に近付く。
 唇が重なった瞬間に瞼は閉じられ、舌が縺れあってどちらの区別もなく求めあった。










 一時の至福だった。けれど永遠の幸福だった。














 神様。
 僕達は呪われた子供です。














 数ヵ月後に一際大きく閃いて虚空へと消えたその流れ星は、目の眩みそうな光の記憶の他には何もセブルスに残していかなかった。





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