卒業したら何になるのか、とシリウスが聞いた。七年生の夏。周りではちらほらと進路が決まったという声を耳にした。
「さあ……」
曖昧に笑みを零したのはリーマスだった。
「やっぱりそろそろ決めないといけないよねえ」
焦ったように早口で返したのはピーターだった。
「……」
「どうしたんだよ、ジェームズ」
「あ、ごめん」
動きを止めたのはジェームズだった。
未来のことを考えているつもりで、その実自分の職業のことなど何も考えていなかったことに気付く。
けれど考えるまでもなかった。
「僕は光の陣営に入る」
それはとうに決めていたことだった。ジェームズにとってはごく自然な答えだった。仲間もそれを驚きなく受け止めた。恋人も。教師たちも。
けれど彼らは何度もジェームズの将来を問うた。まるで彼ら自身の心に、ジェームズの答えを浸み込ませたいとでも云うように。だからジェームズは一層明るく、そして強く答えたのだ。自分が光になろうと。――― セブルスだけは、ついにその問いを発しようとしなかった。
そのことに気付いたのは、卒業の日だった。
「元気で」
そう云って微笑んだセブルスに、堪え切れずにキスをした。愛しているとは云わなかった。セブルスも、そんな上辺の言葉を望んではいなかった。それが上辺の言葉になってしまうのを、望んではいなかった。ジェームズの背中にそっと回された手が温かく、強く抱きしめた。
抱きしめられたままセブルスが告げた。
「……――― さよなら、ジェームズ」
友と呼べる仲間のいない彼の数少ない別れの言葉の重みに、ジェームズは告げるつもりだった再会の言葉を口にすることはできなかった。そんな期待ばかりの言葉で、彼の別れの言葉を侮辱することができる筈もなかった。
「セブルス」
「…………なんだ?」
セブルスの声は微塵も揺るがずただ温かい。純度の濃い幸福の感情が部屋中に溢れ、密閉されたまま密度を増していた。セブルスはその幸福に手を触れようとはしなかった。だからジェームズもそれに倣った。
「さようなら」
元気で、と願うことも、幸せに、と祈ることも、ありがとう、と慈しむことも出来なかった。またセブルスもそれを望んでいなかった。夜の帳が落ちて、それぞれが自分の居場所へと帰った。それ以来会うことはなかった。
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