昼間、会うのはいつも擦れ違いざま。
ある時セブルスは闇の女傑ナルキッサと連れ立って。
ある時ジェームズは親友シリウスと共に歩んで。
ナルキッサとシリウスが睨み合い拮抗する。
僕達は視線を合わさない。気配ばかり背中に感じている。
沈黙のままに去る。
そうして夜、誰も知らないところで罪を犯す。
「ナルキッサとルシウス……マルフォイ家が婚約した」
夜毎の行為が終わるとセブルスが言った。
隣にいる男ではなく、遠くを見詰めて。
闇が、加速していく。
遠くの空の地平近くが燃えるように赤く、天頂のまろやかな暗闇と対比をなしていた。しかしその融合するラインでは見事なグラデーションを作りだし、人々の気付かぬ内に夜をもたらそうとしていた。
そんな時刻、廊下でナルキッサに会った。
先に気が付いたのは彼女だった。こちらを見ると、連れの女生徒と別れて声をかけてきた。
「お元気かしら? セブルス」と彼女は云った。
「今日も顔色が悪いのね」
「そうでもない、ナルキッサ。婚約したそうだが……」
「ええ」
彼女は美しく笑んだ。
ああ、これからこの笑みがあの銀髪の横に並び、闇の全てを魅了するのだ。
祝福の言葉をかけた。
「いいえ、あなただけは呪ってちょうだい、セブルス」
そう云った彼女の笑みは美しいままだった。
「あなただけは。あなたの魔法で、私の性(サガ)と彼の命運を呪ってちょうだい。」
「……お気に召すまま」
「ふふ」
きっと彼女には自分は愚か者に見えるのだろうと、常々思っていた。
優れていながら他者に足を引っ張られること。
努力をしながら決して首位にはなれないこと。
能力がありながら自分を完璧に演じないこと。
なんという愚者だろうと、そしてそこが――― どうしてか――― 気に入られたのだろうと。
「あなたはきっと戸惑っているわね、セブルス。でも私は、あなたの魔法が好きよ。ひたむきで、濃厚な、あなたの魔法が」
「……そうか」
心の空虚が彼女の美しさを完璧にしている。ルシウスは、その空虚に冷たい闇を詰め込むのだろう。彼女は、それを拒まない。
「……あなたを闇に堕としたのは私と彼。恨んでも、いいのよセブルス」
少し考え、セブルスは首を振った。
「……いいえ」
「そうね。あなたはそうよね」
彼女はふふふふと微笑う。
「でも呪ってね。きっと呪ってね。あなたの呪いはとても綺麗なの。陰鬱で、でも光りそうな程美しいのよ。――― きっとあなたは完成しているのね」
「……いいえ。いいえ、ナルキッサ」
強い口調にナルキッサは一瞬目を見開き、次には一層たおやかに笑んだ。
「さようなら。あなたと敵になることがなくて、良かったわ」
「僕もあなたの崇拝者の一人ですから」
「そう願っているわ」
「さようなら」
さようなら、ナルキッサ=ブラック。近い日にナルキッサ=マルフォイとなる女性。
ナルキッサが廊下の角を曲がる前に、セブルスは踵を返した。
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