時々、思う。
 変なジャージを押しつけてきたり、突拍子もないことばかりするこの人は、誰であろう、あの《聖徳太子》なのだと。
 身を清め、正装をして、髪を綺麗に結った姿は、普段の太子からは想像もつかない。けれど矢張り目の前にすると、この人は僕の知っている太子なのだと思う。この人はいつも清廉な雰囲気を纏っているのだ。ジャージや奇行で誤魔化し切れない、それは間違いなく生来のもの。
「いーもこいもこ!」
 僕より遥かに位の高い人々の前を横切り、にかーっと光るように笑って太子が一直線に僕へ寄ってくる。物思いに耽っていたのを朝廷の式典の場だと思い出し、居ずまいを正した。
「私かっこよかった?」
 太子の問いかけはいつもどんな返事を期待しているのかわからない。睦み言でさえ太子のそれは他とは違う。愛しているだなんて平凡な言葉さえ、それを云う吐息が僕を犯す。だからこそ僕は意地を張ったり照れたりするのが常だが、今はすんなりと云えた。
「はい」
 けれど太子は僕の言葉を聞くと笑みを消して眉を顰め、
「ほんとに?」
「え? はい。いつもの数億倍格好良かったですよ、太子」
と僕が微笑むのに一層顔を引きつらせる。何か悪いことを云っただろうか……いや、寧ろ、いつも太子が望んでいるらしい言葉しか云っていない。
「ふううううん」
と太子は僕をじっと見て、
「ま、いいや、格好良いってんなら」
くるりと踵を返す。
「え、あの、太子……」
「私は妹子が大好きだぞ、君がたとえどんな姿だろうと」
 一体、何がなんだか。きょとんとしたまま、僕は立ち尽くした。










-----------------------------------------------------------------
≫解答編へ続く。

■back■