起きると横に曽良くんが寝ていた。
な、なんで!?
……あ、私の看病をしていて寝てしまったのかな。
「ありがとう、曽良くん」
その黒い髪を撫でてあげる。曽良くんはむずがるように首を振った。彼はいつも私より遅く寝て、私より早く起きるので、彼の寝顔を見るのは初めてだった。顔立ちが綺麗なのは知っていたけれど、寝ている時には子供みたいで、綺麗というよりは、
「可愛いなあ」
知らず顔が綻ぶ。さっきまで夢を見ていて、その中で曽良くんが優しく微笑んでいたのは気のせいだろうか。あんな曽良くん初めて見た。いつもは皮肉で辛辣な笑みを浮かべるだけだったから、思いがけない笑顔にぽーっとしてしまった。
「いつもあんな風に笑ってくれればいいのに……」
寝顔に見惚れながら髪を撫でる、その行為に飽きることがない。彼は本当に綺麗で、どこが綺麗かと云うと髪、眼、鼻、唇、肩、指、踝、どこをとっても本当に綺麗なのだった。入門しに来てくれたときも、こんな綺麗な子がと私の方が躊躇してしまったくらい。
「私も曽良くんが好きだよ」
普段は恥ずかしくてとても云えないことを、夢の中で云ってくれたことのお返しだものと自分に云い訳しながら口にする。手の下で曽良くんが身じろぎした。起こしてしまっただろうか、折角気持よさそうに寝ていたのに悪いことしちゃった、そう思って顔を覗き込む。曽良くんの形のいい瞼がゆっくりと開き、黒い瞳に私の顔が映ると、一つ瞬き、柔らかに表情を変えた。
微笑み。
かーっ、と耳まで熱くなった。心臓が胸の中で大きく跳ねて止まらない。
だって笑顔は語ったのだ。好きです。そう語ったのだ。
曽良くんの手が私を撫でた。彼が私に触れるのはいつでも優しく、その愛しさに目が水分を集めていく。ああ、泣きそうだよ、曽良くん。
そんな私を見て曽良くんが一層目を細める。堪え切れずに私の涙が零れると、微かに嘆息して長い指がそれを拭った。
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≪戻る。
初・曽芭(蕎麦)!
夢と現実が入り乱れ、わかりにくいお話になってしまったかも。
ちなみに曽良くんは寝惚けています。
起きたときには微笑みも芭蕉さんの告白(二度目)も忘れています。
勿体ないー。
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