※注意※
翼ある闇ネタバレです。










翼闇ラスト回避後の設定です。










メルと香月のかけざんです。
性行為も一応ありです。
(描写はないのでR指定なしにします)

長々と注意書きをして申し訳ないです。
よろしければどうぞ。

























 一目見た瞬間に理解した。
 これが私の運命だと。





呪われた双児[龍樹兄弟]






 私と彼が向かい合う。するとそこに鏡が生まれる。世界は折りたたまれて私と彼の間で反復し、その外には存在しない。
 ただ鏡に映る彼のみが私の全てとなる。
 視線と共に私は彼に記憶を差し出し、言葉を交わす度に彼の感情を受け取る。
 私は彼になり、
 彼は私になる。
 隔てられて育った自我は二十余年の歳月を経て一つに統合され、私は途方もなく満たされる。
 と同時にどうしようもなく空虚でもある。誰かにとって何者かであった私は消え、私は彼と交換可能の存在に成り下がる。そのとき初めて何者かであるべしという重圧を感じていたことを自覚し、それから解放されたことが私を幸せにした。彼も同じ気持ちだったろう。
 なぜなら彼は私なのだから。





 くすくすと彼が笑った。あるいは私が。暗闇の中で、どちらの声とも区別がつかなかった。


「二卵性なんだってね」
「ああ。木更津は勘付きそうだったけどね」
「彼の観察眼が役に立つのかい」
「そう言うなよ。じゃあ夕顔に会うかい? 女の勘は鋭いぜ」
「はは、浮気でもばれたか」
「まさか。美袋先生とは違うさ」
「彼に浮気できるほどの甲斐性はないよ」





 同じ胎から同時に生まれた、それだけでこうも安らぐものだろうか。二卵性双生児である私と彼は遺伝情報を共有せず、また外見的特徴も一致しない。生まれる前の十月十日を共有しただけで、普通の兄弟となんら変わりはしない。
 だから一卵性双生児であることを、私達は心のどこかで願っていた。もしそうであれば、紛れもなく私と彼は等しい存在となるのに。





「一つになろうか」
 提案したのはどちらだったろうか。
 大層真剣な表情をしていた筈だと思い出す顔は、どちらのものとも見分けがつかない。
 私が自分の顔を想像していたのか。彼の表情を見ていたのか。
 いずれにせよ、私達はその提案を試みることにした。





 彼の体を見下ろすと、酷い既視感に襲われた。鏡に自分の肉体を映しているような。あるいは幽体離脱をして、自分の体を見下ろしているのではないかと。自己の存在への確信が揺らぐ、不安定な感覚。
 それは彼も同様だったようで、こちらを見上げながら首を捻った。その仕草も自分を見ているようで、とことん奇妙だ。
 けれどやめようとは思わなかった。この異常とも言えるシチュエーションに、少なからず興奮を覚えていた。
 行為にあげる声もしなる肢体も、全てが自分と同じなのではないかと思い、どこか現ではないような心持ちになった。快感に歪む顔は、紛れもなく自分のものでもある。責めているのか責められているのか、昂揚する気分の中でわからなくなるほど感覚が混乱し、普段以上の快楽を得た。





 本来生殖の手段であるこの行為は、勿論私達の間でその用をなさない。それどころか大抵の同性愛者にとってそうであるような、愛情を確認する手段ですらない。
 自分を殺し、そして生き返らせる行為。
 生まれる前の存在に還り、一つになって生まれ変わる。
 ――― 自分を抱く。
 その感覚は私達を虜にした。





「もしばれたら?」
「君は細君に殺される」
「君は依頼が減る」
「つまりどちらにとっても良いことはないわけだ」
「まさかばらすつもりじゃないだろう?」
「まさか」





 彼は意地悪い笑みを浮かべているだろう。そして私も。
 私達は互いを信頼していない。自分の利益だけを考えていれば良い。
 なぜならその自分という概念は、私達の間で既に共有されているからだ。





 今日も一人の男が名探偵に仕立て上げられ、哀れな小説家は人権を剥奪される。
 私と彼の行く先々には死体が転がり、推理は幸福な結末を保証しない。
 誰よりも優雅な幕引きを。
 何よりも甘美な報酬を。
 それが私達の望む全てであり、私達を生かす唯一の手段である。





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2012.04.15.
二卵性双生児のメルカトルこと龍樹頼家(兄)と
香月実朝(弟)のかけ算です。
どちらの視点からでも読めると思います。
周囲に不幸を振りまきながら、二人きりで立つ双児。

香月が夕顔に殺される云々はメルのジョークであって
私は特に鬼嫁とは思っていません。念のため。