―――朝の光の中。
「出来た……!」
 夜中の内にホグワーツのキッチンに忍び込み、夜通しで行った作業を終え、セブルスは誇らしく明るい気持ちで完成品を見詰めた。初めは「自分達の居場所を盗るな」と怒っていた台所妖精達も、「よかった、よかった」とセブルスの周りで感激の涙を流していた。
 始まりは、極めて良好な春の朝。





「おい、ポッター?」
 部屋を覗いて声をかけるがジェームズはいない。午前中の授業が全て終わってすぐ急ぎ足で教室を出て、せっかくグリフィンドール寮に忍び込んだのに、とおかんむりのセブルス。
「おい、スネイプ!」
「ちょっと君、何やってるの?」
 仕方ないな、ここで待つか……とジェームズのベッドに座りぼんやりしかけたその時、シリウスとリーマスが部屋に入ってきた。
「貴様らこそ、何故ここに」
「いやここ僕らの部屋なんだけど」
「あ……」
 杖を一振り。セブルスは、マグゴナガル女史に告げようと部屋に入りかけてUターンしたピーターに石化の魔法をかける。
「それより、ポッターはどこにいる?」
「さあ? 大広間とか?」
「いなかった」
「よく密会に使う秘密の小部屋は?」
「もう探した」
「ダンブルドアに呼び出されてるとか」
「貴様らがここにいるのに?」
 それもそうだ、とリーマスは頷いて、そこにシリウスが疎ましげに声をかける。
「クィディッチの練習場にいるんじゃねえの?」
「なるほど!」
 セブルスは瞬く間に踵を返し、いつもなら考えられない速さでばたばたと廊下を走って行った。通る人がみな、その鬼気迫る様子に道を開けた。
「いやあ、恋の病ですかねえ」
「勉強しすぎてついに頭がおかしくなったんじゃないか?」
「春だからねえ」
 麗らかな昼。リーマスは目を細め、固まったままのピーターを一瞥し、シリウスを二人きりの昼食に誘った。





「おい、ポッター!」
「セブルス?」
 クィディッチのユニフォームを着て、木陰で休むジェームズにセブルスは走り寄った。
「珍しいね君が走るなんて……。何かあった?」
「これ!」
 にこやかに尋ねるジェームズ。セブルスはつっけんどんに右手を突き出す。
 その手は大きく膨れた風呂敷包みを持っている。
「ん?」
 ジェーは首を傾げ、とりあえずその包みを受け取った。風呂敷は赤と金のストライプ。グリフィンドールの色である。
「開けていいの?」
 聞くと、セブルスは俯き気味に目を逸らしたままこくりと頷く。また何か毒でも作ってきたか? と疑りつつジェームズは固い結び目を解く。ぱらりと風呂敷が広がる。包まれていたのは漆塗りの三段お重。
「開けてみろ」
 セブルスが矢張り目を合わせないまま云う。「はーい」ジェームズはにこにこして従う。お重の中にはジェームズの好物ばかりが入っていた。多少不恰好だし、至るところに焦げたあとがあるけれど、それでもセブルスのことだ、味は美味しいに違いない―――と思うのは、惚れた弱み?
「おいしそうだね! セブルス、ありがとう!! 愛し……」
「別に貴様のために作ったんじゃないんだからなっ!」
 ジェームズの言葉を遮って、セブルスがばっと顔を上げて噛み付くように云った。
「は?」
「貴様のためにわざわざ作ってやったんじゃないんだからなっ!」
 再びセブルスは怒鳴る。顔は真っ赤だ。目は潤んで可愛い。
「へえ……じゃあ何、セブルス?」
 ジェームズはお重を脇に置き、膝でにじり寄る。
「僕じゃなければ誰のためだって云うの?」
 首席の冷たい目と冷えた空気に、セブルスはやっと気付いた。そして気付いた時にはもう遅い。
「そ、それは……」
 逃げようとしたが腕をとられ、芝生に押し倒された。
「今更白状したって赦さないよ」
「んん―――っ!」



 そのまま食べられてしまいましたとさ。





 ●





 おまけのおまけ。



 リーマスとシリウス。
「そういえば君は?」
「ん?」
「クィディッチの練習。行かなくていいのかい?」
「午前中はさぼりだけど、……お前が食べ終わったら行く」
 リーマスはその答えに満足し、スパゲティを巻くフォークの回転を遅くした。





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2007.05.08.
拍手ありがとうございます!
ツンデレセブルスを正攻法で試してみたくて書いてみました。
後悔はしていません。