※18禁です※
春勘前提の頼勘です。







 僕を抱く春華はとっても優しい。
 長い指が僕の体を優しく撫でてゆっくりと熱を上げていく。形の良い唇から零れる言葉が僕の頭をとろけさせる。どんなに歯の浮く言葉も似合ってしまうジゴロのような男に欲情されているなんて幸福に僕の目は眩みそうになる。
 でも本当は微笑を浮かべて愛情を確かめるように抱き合うより、ただただ肉欲に溺れて体を求められるほうが好きなんだ。手首を縛って目隠しをして首を締められながら貫かれるなんて最高すぎて考えただけでイきそう。でもそんなことを春華に言ったらまともな彼は狂って壊れてしまうだろう。そんな春華もきっと美しいので僕はうっとりと妄想に身を委ねる。黒く艶やかに流れる髪はますます彼の憂いを引き立て、世の女性を虜にしてやまない少し目尻の下がった瞳はもう僕しか見えないんだ。でもそんな春華を見るのは僕を興奮させるのと同時に、もう彼に愛される錯覚すら出来ないという悲しみも引き連れてやってくるので、実行はしない。
 あるいは僕の本望を知った本当の人外の彼は、僕こそが人外であるかのように見詰めるんだ。僕の肌が白いことも瞳が赤いことも何一つ問題にしなかった彼が、他の人と同じように僕のことを不気味がるんだ。頭がおかしいって詰るんだ。だって本当にそうなんだもの僕は頭がおかしいんだもの仕方ないじゃない。妖怪の君が人間と同じ心を持つのに人間の僕はそれに見合った心を持ってないんだごめんなさい。だから僕を人間みたいに抱かないでいいよそんなんじゃ僕は満足できないよ。今まで騙しててごめんね最低だって罵ってねごめんこれも嘘なの君にだけは知られたくないの。
 春華に愛された後の僕はこんな風に後悔と懺悔にがんじがらめになっている。そんな愛おしむような目で僕を見ないで。優しい手付きで触らないで。汗に濡れた髪が額に貼り付いているのに春華は僕を見詰めて微笑むんだ。その瞬間僕は絶望する。だって彼が抱いているのは、愛しているのは僕じゃない。彼に本当に愛される人間にだけ向けられるべき微笑みを、誤りと知りつつ甘んじて受け入れてなおかつ微笑み返してしまった罪深さに吐き気と歓喜が同時に押し寄せ僕は死にたくてたまらなくなる。
 だから僕は春華に抱かれた翌日に源のところに行く。
 権力に彩られた美しい顔をしているこの年下の青年は歳相応に余裕なく獣のように僕を貪るので僕は彼を気に入っている。ただ、ふかふかの布団と天蓋付きのベッドは全く僕の気に入らなくて、だってたとえ春華が僕を愛していなくても僕は彼を一番に愛しているので源との密会なんて寂れた場末の旅館のぺらぺらの布団の上が相応しいと思うのだけれど、温室育ちのこの青年はそんなところには絶対に来てくれないのでそこは我慢する。僕の家が丸々入りそうなくらい広くきらびやかな部屋に入るなり、首に手を回して汗ごと皮膚を舐めて吸って付けた痕をさらに舐めて、最後に耳たぶを甘噛みして耳の穴の中まで舌を差し入れて息を吹きかけて「みなもと」と情欲を滲ませた声で囁いてやれば、彼はあっけなく堕ちて僕を組み敷く。
 深く深く舌を絡めて互いの唾液を混ぜ合わせる。唾液の密度って人によって全然違うんだって春華は源は知っているかな。春華の唾液はさらさらしていて飲み下すのもとっても簡単なのに、源のそれはとても濃くねっとりと口内から僕を犯すんだ。だからこいつとのキスはすごく気持ちが良くて、もう僕はそれだけで頭と腰がじんと痺れる。もっともっととねだるように彼の髪に指を差し入れてぐちゃぐちゃに掻き回し、身だしなみにうるさい彼もそれに文句を言わないくらい気持ちいいんだとわかったら、キスをしている舌の先端のように人差し指をついと立てて、体の線をなぞりながら舌へと動かしていく。こうされると触れている指を舌のように錯覚してしまうのは僕だけかな? そうして直接彼自身に触ってやると、澄ました顔で僕の口に唾液を注ぎ込み、嚥下する喉の動きを見る瞳にサディスティックな色を浮かべていた源が、一瞬苦しそうに眉を歪めて息を漏らす。もっとよがれよ、お高くとまった品性も持て余してる理性も飛ばして、僕で性欲を満たすことしか考えられなくなるくらい。僕は明確な目的を持って舌と手を一緒に動かす。ほらほら。
 やがてキスする余裕すら失くして口元がお留守になった源を、僕はもうたまらないというように潤んだ瞳で見上げて唆す。唇を薄く開けて淫蕩の香りのする息を吐けば、彼は電撃に打たれたように僕の胸に吸い付く。胸元から始まり腹部へと唇を移す源の髪を掴んで喘ぐ僕の声が自分でも驚くほど卑猥で自分で自分を興奮させるのにも最適。
 馬乗りになって僕を見下ろす源の目が情欲に濡れて僕への愛情なんて微塵も感じられないのを見て、もともといかれていた僕の頭はすっかり考えることを放棄した。力なく震える腕を伸ばして懇願する。もっともっともっと。全部全部奪って物みたいに扱ってよそれが僕に快楽を与えるということなの。心なんてないよ気にしなくていいよだって僕はただの物。
 源が中に入ってくるので僕はたまらず喜んでよがる。じっとしているなんて出来ず勝手に腰が動いて奥へ奥へと彼を促し、その快楽に耐えかねていやいやをするように首を振ってしまう。だけど全然嫌なんかじゃない、寧ろ逆。春華にはそれがわからないからここで一瞬止まって僕に伺いを立ててしまうのだけれども、源は意思表示に似た僕の頭の動きなんかお構いなしに、僕の肉が彼を受け入れるために収縮するのに従って侵入をやめない。そして頭の良いこの青年は僕のよがる場所を覚えていて今日も執拗に責め立てる。ああもうおまえのそういうところ本当好きだよって言ったら、ねえ僕は君は彼はどうするの。僕は頭がおかしいからわからないんだ誰か教えて。
 がくがくと揺さぶられるのと同時に源がまた唇を寄せてくる。僕は一も二もなくその首筋に手を回して引き寄せ、その熱い口内を舌でまさぐる。僕が何も言ってしまわないようにおまえの唇で塞いでてよ。口の端から唾液が零れてシーツを汚す。上からも下からも快楽の波が押し寄せるのを僕は余さず受け止めるのでもう呼吸すらおぼつかない。ああもう死んでしまいたい。
「先生、気持ちイイ?」
 最低最悪のタイミングで源が訊く。こんなにも嬌声をあげて淫らに腰を振って体中を唾液塗れにしていて気持ちよくないわけがないのに、なんでそんなこと訊くんだろうこいつ。まるで僕のことを愛してるみたいじゃないか。やめてよそんなこと気にしないでただひたすらに僕の体を求めてよ。もっと激しく腰を揺らして体の奥の奥まで突き動かしてよ。僕が煽った肉欲に塗れて、僕から全てを奪ってよ。それが僕の快楽なんだから。
 僕は喘ぎ声の合間に短く答えた。
「最高」
 もう本当、涙が出るくらいに。










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2012.05.27.
tac新刊で舞い上がった気持ちと
えろ練習したいなっていう気持ちが混ざりました。
性欲に逃げたい勘ちゃん。

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