もしも春華と僕が別れるとしたら、と僕は考える。
間違いなく、僕が振られるだろう。
何故なら、僕は春華を振らないからだ。
うーん、なんて単純明快なんだろう、僕って天才? と調子に乗ってみる。
春華はまず、部屋に入ってきた僕に対して、こう切り出す――― 「俺はもうお前のことが好きじゃない」。
ああもう、この時点で僕はうっかりと涙ぐみそうになってしまう。こんな根拠のない空想で泣かれてしまっては春華もいい迷惑だろう。
「でも、僕は春華のことが大好きだよ」
僕は精一杯の反論を試みる。だって僕が自信を持って云えるのはそれだけのような気がしていたので。
美しい顔立ちを、それまで付き合っていた恋人に別れを告げる、という苦悶に歪ませた春華は、体のどこかが痛いのではないか、というほど苦しそうに首を横に振る。
そうか、もう駄目なんだ。
僕はもう世界が終ったような気がする。なんで泣き出さないのか不思議なくらいだ。きっと理解のスピードに体が追い付かないんだろう。ほら、僕って頭の回転が速いから。――― いや、泣いてしまっては春華はますます僕のことを嫌いになるだろうから、僕は泣きそうになるのを必死に堪えるのだ。それはそうだ、今更僕が泣いてもどうしようもないことなんだから。涙で引き留められる程の安い関係ではないのだ、僕と春華は。
だから、「そう、じゃあ、幸せになってね」とだけ云って、僕は春華の部屋を出る。
これで僕と春華の長いような短いような、僕にとって幸福だった付き合いは終わる。
そして僕は死ぬほど後悔する。
泣いて泣いて泣き喚き、ああすれば良かったこうすれば良かった、そんな取り返しのつかない後悔を死ぬまで続ける。
もう一度会いたい、会ってやり直そう、僕の駄目なところ全部全部直すから! と云いたくても、春華には二度と会えない。
封印を解かれた鬼喰い天狗は、もう伝説になることもなく、どこかの山奥で生きるのだ。
ああ、なんて悲しいんだろう! 切ないんだろう! えーん!
……。
はい、別れ話いっちょあがり!
あ、やばい、本当に涙が出てきていた。もうすぐお夕飯だって云うのに、ヨーコちゃんにばれたらどうしよう。
ところでこの空想に難点があるとすれば、僕は絶対に春華に嫌われるような失敗をしないので、こんな別れ話をすることはないってことだ。
名前の契約もあるし? ほんと、春華なんて素敵な名前をあげたのだから感謝の一つもして欲しい。
その大前提をどこかにやって、勝手にこんな空想をされているのだから、春華にとってはいい迷惑だよね。
「勘太郎、夕飯できたってよ」
と、現実の春華が呼びに来る。
「はいはーい」
僕は応えて、真っ白の原稿用紙をそのままに、部屋を出る。
まあ一番迷惑なのは、泣いて悲劇的な気分になるところまで含めて、僕がこの空想を楽しんでいることなんだろうなあ。
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2010.03.25.
一人遊びが大好きで大得意な勘ちゃん。
妄想ノンストップ。
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