なんとなくおかしいなとは思っていたのだが、おにぎりにウィンナーが入っているのを見て、ようやく違和感の正体に気が付いた。
「音野、このおにぎり、中身がおかしいな」
「そう?」
「ウィンナーだ」
 自分が食べているおにぎりの断面を見せると、それを見るまでもないというような調子で、そうだねと控えめに音野は頷く。今朝このおにぎりを握ったのが音野本人なのだから、当然だ。
「えっ? 前からウィンナーなんて入ってたっけ?」
「ううん、今日初めて……」
「あ、そうだよな。ん? おかかに飽きたのか?」
 ううん、と音野は声を出さずに首を振って答える。
「いろんな味に挑戦しようと思って」
 美味しくなかった? と小さな声で訊かれれば、私も美味しいよと言うしかない。まあ、実際悪くはなかった。初めての味に戸惑っただけで。
「うーん、美味しいよ」
 おにぎりを咀嚼しながら、改めて言う。
「でも、こういう積極性を探偵業に発揮してくれた方が、私は嬉しいんだが」
「おにぎりと探偵は、全然別……」
「いや、そんなことはない」
 音野の言葉を遮って、私は身を乗り出す。ちょうどおにぎりを食べ終わった。
「おにぎりの中身に創意工夫を凝らすように、犯罪現場には犯人の創意工夫が凝らされている。そこには完全犯罪を目指すチャレンジ性と、絶対に失敗できないというスリルがあるんだ。まあおにぎりでは失敗できるかもしれないが、いくらでも失敗してもいいということにはならないからな。というわけで、おにぎりに賭けるその情熱を、探偵業にも活かして欲しい、音野」
 うう、と言葉にならない言葉を呻いて、音野は自分の部屋に逃げるように走って行くと頭から布団を被った。
「おにぎり怖い」
「まんじゅう怖いじゃないんだから」
 寄って行って、音野の布団をばさりと外してやった。そのときとんとん、と高く扉が叩かれる音がして、私はにっこりと笑いかける。
「ほら、今日も依頼だぞ、名探偵」
「……大家さんだと思う。さっき、白瀬がスタンドライトを持ってきたとき、すごい音したから」
 購入した店からこの部屋までスタンドライトを運んだ際に、古い方のスタンドライトを床に落としてしまったのだ。そう言われて耳をすませば、確かに、扉の向こうから聞こえる声は大家さんのもので間違いがなさそうだった。
 私は肩を落とし、再び布団をかぶった音野に言ってやる。
「すごいぞ、名探偵。声を聞く前に、大家さんだってわかったんだから」
 それくらい誰でもわかるよ、と音野は小さな声で返した。





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2014.01.11.
麻耶クラ土下座オフで書きました。
おそらくは白瀬が音野の布団をはぎとったところが最大の白音ポイントだったんですが
フラグはあっさりと折られました。