※アバ駄ニです。
※総司令と14歳シモンも出てきます。





「あんたは人質だ」
 カミナの頭に銃口を当てて男は言う。
「死ぬも生きるも俺次第だ」
 声は低く地を這い、見下ろす瞳は凍えるように冷たい。その目に睨まれている今ならば、一万年のコールドスリープにだって躊躇なくサインできるだろう。
 もちろん、そんなお金があればの話だが。
 豪華な宇宙船には宝がぎっしりと入っているものだ。手前勝手にそう断じて忍び込んだ宇宙船の、どうやら艦長室で転がされるのにたった五分もかからなかった。手も足も後ろで縛られ、正座をしているのがカミナの現状だ。
 それにしても、と銃口に震えながら思わずにはいられない。なぜ、正座なのだ。
 足が痛いがそれだけだ。もしかするとこのまま帰してもらえるんじゃないだろうか、だってまだ何も盗んでいないし。そんな甘い期待を裏切ったのはついさっき男の腰から取り出された抜き身の銃で、へらへらとカミナの顔に浮かんでいた笑みが固まるのを、男は虫を観察するように見詰めた。
「なあ」
 表情も銃身も微塵も動かさず、唇すらほとんど開かずに言う。
「この船の周りをさっきから子供がうろうろしている。おまえの連れか?」
「そっ……」
 脳裏を少年の笑顔がよぎる。しかし出会った頃に数度しか見ていないそれを鮮明に思い出すのは不可能というものだった。男の顔を見ている内にイメージは記憶の彼方に掠れゆき、カミナは再び床に視線を落として呟く。
「そうだ。そいつが俺にここに入れと言ったんだ」
「そうか」
 連れて来い、と男が扉の前で控える部下に短く命じる。
 ほどなく連れて来られた少年の手は前に縛られ、足取りがよろめいているのは暴力を受けたからではなく栄養が足りないからだ。この前腹いっぱい食べられたのは何日前のことだろう。カミナの腹も中身はなくて、さっき蹴られたときに出たのは黄色い胃液だけだった。
 少年はカミナを一目見て叫ぶ。
「アニキ!」
「シモン……」
 人口の明かりで朝と夜とを分けていた地下の村で、穴を掘っていた子供だった。村を広げるという名目で、穴を掘るために掘っていた。ドリルを使うのが誰よりうまくて、それでいて驕ることも、大口ばかり叩くカミナを馬鹿にすることもなかった。
 カミナがまだシモンくらいの年齢だった頃に、一度だけ地上で燃える太陽を見た。もう一度見ようと村を飛び出たときに、ついてきたのはシモンだけだった。
 ちょうど今のように、アニキと呼んでいた。
「駄目だ」
 男がカミナの前に立ち、駆け寄ろうとしたシモンを妨げた。紺のコートが重く翻って裏地の赤が目にも映え、固い靴底が低く鳴る。銃身はそれでもカミナに向けられたままだった。こちらを向いていないのだから容易くその手を払いのけられる気もするが、たとえ自由に手を使えても、そうしようとは思わない。
「この船が誰のものだか知っているか」
 シモンに問い詰めるその顔はカミナに見えないが、きっと能面のように暗く冷たい顔をしている。シモンはびくりと竦んで立ち止まり、それでも男が容赦しないのがわかると、おずおずと口にする。
「……だ、大グレン隊……」
「わかっていて手を出したなら世話ねえな」
 男は処置なしというように軽く溜息を吐く。
「おまえがここを狙わせたのか」
 問われたシモンはきつく唇を引き結んで俯いた。否定の言葉を口にしなかっただけ、カミナにとってはありがたい。
 命の残り時間が延びる。
 こんなところで死んでたまるか。
 まさかこの宇宙船が大グレン隊のものとは知らなかったが、そうであるならセキュリティが厳しいのも当たり前。大グレン隊と言えば宇宙一のならず者、シモン=アバンの率いる海賊団。二次元宇宙から四次元宇宙まで股にかけ、出会った宇宙船には即時応戦して身ぐるみ剥がし、避けようとした宇宙船は追いかけて身ぐるみ剥がす。その強さに惹かれて彼の軍門に下る者も数知れず、最初は一個の宇宙船から始まったグレン隊はいつしか大グレン隊と名前を変えていた。
 いつか彼のように宇宙を駆けたいと願った頃が、カミナにもあった。地上に出て太陽を知り、月を知り、星を知った。カミナにとって天の光はあまねく希望の光だった。その希望は大グレン隊の隆盛と時を同じくして反比例に薄れ、カミナはいつからか町のちんぴらに成り下がった。後をついてくる弟分に斥候させて金持ちから盗んで売り捌き、替えた金でその日暮らし。口を開けばすらすらと流れ出てくる言葉は、地上でも何の役にも立たなかったのだ。
 その末路がこのザマだ。
 土下座をすることを惨めだとも思わない。
「俺達にできることならなんでもする! だから頼む! 命だけは助けてくれ!」
「人質が俺に意見するのか」
 初めて男の顔に笑みが浮かんだ。酷薄な嘲笑。背中から首筋にかけてぞっと寒気が走るのがわかった。
「だが……いいだろう。あんたは要らない。でも俺はあんたが欲しい」
 カミナ、と名乗ってもいないのに名を呼ぶ。カミナのために膝をつき、その男は目線を合わせた。
「カミナ」
 愛おしげに囁き、唐突に優しい目で微笑む。まるで生き別れの恋人を見るような恋い焦がれた表情に、カミナは一瞬の胸の高まりを覚えた。だがそれはすぐに消え去り、男は再び冷たい目をしてカミナの頬を張った。
「あんたは俺の人質だ。そして」
 頬を押さえることもできず床に転がるカミナにまたがり、男はシモンを横目で睨む。
「おまえはそこで黙って見てろ」
 白地に赤いハートが散った、派手なアロハシャツが引きちぎられた。ボタンが弾けて床に散らばる。最初に泥棒をしたときに着ていたそれは、験を担いで盗みのときにはいつも着ていた。これまでは全てうまくいっていた、死なないでいればそれで良かったのに。
「安心しろ、優しくしてやる」
 そんな凶暴な顔をして言われて信用できるわけがない。ぶるぶると震えるカミナの様子に男が笑い、唇がカミナの平たい胸に寄せられる。ヤられる。衝撃に耐えるように、カミナはぎゅっと目をつぶった。
「おい、やめろ」
 突然態度を翻して男が言ったかと思うと、かぶさっていた重みがふっと消える。何かが壁にぶつかったような鈍い音と、男の呻き声が聞こえた。何が起こっているのかわからず、それでも目を開くのは怖くて、全身を強張らせて次の展開を待っていた。
 一秒、二秒。
「……アニキ、いつまで目をつぶってるんだ」
 気のせいだろうか。呼びかける男の声が、妙に優しい。けれど大グレン隊の隊長に言われてそのまま目をつぶっているわけにはいかないので、おそるおそる目を開ける。
 男がカミナの顔を覗きこんでいたが、先程より穏やかそうな雰囲気に変わっていた。よく見ると髪の長さも少し違うし、服もあまり着崩していない。何より顔立ちが随分幼い。
「……?」
 凝視するカミナに、男は苦笑する。
「わからないかな、顔は同じ筈なんだけど。シモンだよ」
「いや、シモンはもっと小さい――」
 はっとして見ると、自分の子分はいつの間にか跡形もなく消えていて、さっきまでカミナに跨っていた男は壁に背中を預けて不機嫌そうに腕を組んでいる。再びシモンと名乗った青年を見ると頼りなく苦笑する。しかし大グレン隊の隊長が『自分のもの』をとられて黙っているなんて、このいかにも優男な青年は何者だ。
「ごめん、説明するのちょっと面倒なんだ。あんたは俺のアニキじゃないしね」
 あっさりとそう言って、青年は壁際の男に近づいていく。双子か、いや兄弟か。しかしそんなふうにはとても見えない。二人のよく似た男が漸近していく様は、カミナの世界観を混乱させるのに充分だった。
 足りない頭でごちゃごちゃ考えても仕方ない。もっとするべきことは他にある。
 脱出だ。











 アバンは壁に背中を預けたまま、近付いてくる男を見詰めた。声が二人の間でだけ届く距離にまで近付くのを待ってせせら笑う。
「仕事は終わらせて来たのかい、シモン総司令」
「余計なお世話だよ」
 シモン総司令は眉を顰め、不機嫌な声でそう返してくる。総司令という肩書のせいか、大人びて見えるが所詮は子供。まだたった二十一歳だ。
 アバンはやはり口の端を歪めた。
 多元宇宙において、シモンだけは互いの宇宙を自由に行き来できることになっている。けれど二人のシモンが同じ宇宙にいると、その宇宙にいろいろな影響を及ぼしてしまうので、滅多にしない。
 全宇宙を敵に回す宇宙海賊、大グレン隊を率いるシモン=アバン。
 テッペリンを倒し、新政府を樹立し、総司令となったシモン=ジーハ。
 この二人は本来同一の人間で、けれど生きてきた経験と時間が、別個の個人たらしめる。
「とは言え、おまえがこっちに来るのは初めてだな。まさかその男を引き取りに来たわけじゃないだろう」
「まさか」
 言下に否定し、ちょっと迷って「俺もそこまで飢えてない」と付け加えるので思わず吹き出す。
「ははっ、あんなでかいカミナ像を立てておいて何を言う」
「うるさいなぁ!」
「どうせ他のシモン達にもからかわれたんだろ。それはそうだ、あれは見物だからな」
 思い出してまた笑うと、総司令は憮然として腕を組んだ。それはアバンもよくする格好の一つだった。
 こうして簡単に気付くところはもちろん、首を傾ける角度や髪をかきあげる手付きといった細かいところですら、仕草や嗜好が似ている。まるで双子のようだけれど、実際双子より深く繋がっているのが『シモン』だ。存在している宇宙がかぶっていなくても、互いが何をしているのかわかってしまう。
 だから総司令となったシモン=ジーハが首都にカミナシティと名付けたことも、仕事の傍らで自ら巨大なカミナ像を建設したことも、アバンにはすぐにわかった。堪えきれず吹き出し、あんまり面白かったものだから、わざわざ見物に行ったくらいだ。そのときに他の宇宙のシモンと鉢合わせることはなかったが、絶対に来ていると確信していたのは、どうやら当たりだったらしい。
 話を戻すよ、と総司令が低い声で言う。けれどその声にアバンのような迫力はなく、アバンは肩を竦めて話を促す。
「……わかってるだろ、このカミナはおまえのアニキだ」
「まさか。さっきまで十四歳のシモンがいただろ」
 二人のシモンがいる宇宙。そういう可能性も、なくはない。あのシモンにはこのカミナが、そしてアバンにはもう一人のカミナが、いたっておかしくないではないか。
 しかしそう応えながら、嫌な予感がアバンはしていた。総司令が現れるにあたってあの子供の体が依り代になったということは、あいつはもともとこの宇宙の人間ではなかったということなのではないか?
 顔を青褪めさせたアバンに、シモンは冷たく囁く。同じ人間なのに、あるいは同じ人間だからこそ、仲が良いとは限らない。
「気付いた? あれは多元宇宙を漂流してるシモンだよ。これからアンチスパイラルと戦うんだ。この宇宙のものじゃない」
「畜生!」
 背にした壁を叩く。宇宙塵を精錬した特注の素材で出来ている壁はびくともしないが、普通の宇宙船ならば穴が空いていただろう。
 激高するアバンを、シモンは無表情に眺めた。
「あんまり大きな声を出すなよ。アニキが怯える」
「あいつが? はっ」
 シモンの肩越しにカミナを見ると、床に転がったままでいる。アロハシャツを破ったのは自分だが、その破れ目から覗く体が貧相で哀れみを誘った。きょろきょろと辺りを見回しているのは、この期に及んでまだ逃げ道を探しているんだろう。往生際の悪いやつ。しかも手足をきつく縛っておいたのに、もぞもぞと動いて芋虫のように移動を始めた。
 なんて格好悪い!
「おい」
 怒鳴り声に反応してぴくりと止まる。強者の恫喝に怯えるのはいかにも弱者だ。惨めったらしくてみっともない。反吐が出そうだ。殴りたい。
「あと一センチでも動いたら殺すぞ」
 ひっと出た声は貧弱で、きっと胃が縮み上がっている。すいませんじっとしてますだから殺さないでくださいお願いですと、大体そんな意味のことをまくしたてるが、口を開くのは禁じなかったから仕方ない。それにこうして口の回るところはカミナと同じなのだから性質が悪かった。シモンも執着と嫌悪と諦観が混じった表情でカミナを見つめていたから、きっとアバンも同じような表情をしている。
 それでも結局、シモン=ジーハはカミナに優しい。鼻を鳴らして向き直ったアバンに、不快そうに溜息を吐く。
「なんだよ」
「……アニキには優しくしなよ」
 無理だね、と肩をすくめる。
「俺はもともと、この宇宙にアニキがいないと思ってた。だからどこかから紛れ込んできたあいつを人質にして、他の宇宙のアニキを分捕るつもりだったんだよ」
「あんたは本当に性格悪いよな」
「おまえも大概だ」
 それに、よりによってこいつが来るのも予想外だった。こいつの宇宙のカミナはとうの昔に死んでいて、そもそもが手に入らない。何しろカミナ像なんて彫ってしまうくらいなのだから執着は根深くて、カミナと見れば自分の宇宙の彼ではなくても好きなのだ。
 もっともそれは、どの宇宙のシモンも同じなのだけれど。
 シモンにはカミナが必要で、必然のように惹き合う宇宙。アバンがかつえるほどに追い求めるのも敵ではなく、ただ一人兄という存在だった。
 深い溜息が口から漏れる。目頭を押さえて、眉間の皺を揉んだ。頭が痛い。
「なんで俺のアニキはこんなクズなんだ」
「そういうアニキもありえたってことなんだろう、きっと」
 わざと素っ気ない風を装って、シモンが目を逸らす。そんな行動をとるのがどういうときか、アバンには手に取るようにわかる。
 アバンの表情に気付いたシモンが、精神的にも物理的にも距離をとった。
「……なんだよ、にやにやして」
「おまえ――」
 顔を近付け、耳元で囁く。低い声で誘うように。自分を誘うなんてちょっとない経験だろう。自分に囁かれるというのも。それはまるで内側から聞こえる声のように聞こえやしないか。
「自分のアニキが死んだのに、あんなやつが生きているのが許せないんだろう」
 勢いよくアバンから離れたシモンの顔に、さっと赤みが差している。けれど用心深いその青年は安易な挑発に乗ることはせず、慎重に問い返した。
「……だったらなんだって言うんだ」
「殺そう」
 シモンはぴたりと動きを止め、体を強張らせた。アバンはそれを見て、またにやにやと笑いが広がるのを抑えられない。両手を広げて笑う。こんなに楽しい気分になったのは久しぶりだった。
「殺しちゃおうぜ。だってこんなやつアニキだって思えないだろう、おまえも俺も。だったらいっそいない方がいい」
「だって、そしたら、あんたは……」
「なんだ? 俺を心配してくれるのか? 今更そんなもん要らねえよ。俺は百年の孤独に耐える」
 シモンはぎゅっと唇を結んだ。ひたむきな黒い目がまばたきもせず一点を見詰め、ややあって答えた声は硬かった。
「……駄目だ。俺はアニキを殺せない」
「ふん。意気地なしめ」
「あんたはアニキが死ぬところを見ていないから!」
「おまえはアニキを一度殺しているからだろう?」
 左からストレート。右手で受け止めてにやりと笑う。何しろ自分の分身のようなものだから、攻撃パターンだって予測の範疇。そしてこの宇宙に生きるアバンの鉄則は、やられたらやり返す。
 右ストレートでシモンを殴る。よろめいたシモンの唇が破け、流れた血を手の甲で拭った。
「……もう勝手にしろ。ただし、アニキを殺したら俺があんたを殺す」
「おいおい物騒だな。俺はシモンだぜ」
「シモンだからだ」
 わかったな、と念押しして、シモン=ジーハ総司令は消えた。ふっと存在自体が掻き消えて、後には何も残らない。十四歳のシモンが現れることもなく、やはり総司令の言った通りらしい。
 この宇宙の『シモン』はアバン。そしてその『アニキ』は、このカミナただ一人。破れたアロハシャツを着て、両手両足を縛られて、それでも逃げ場を探してる、生き汚いクズ野郎。
 かつんと靴を鳴らして、カミナのもとに歩み寄る。命令に従って一ミリも動かずにいる彼に、動いて良いと投げやりに言う。
「俺の名前はアバンだ」
 腰に手を当てて上から名乗れば、はあ、とカミナは頷く。
「返事ははいだ。それ以外は飯抜きにする」
「めしぬ……へっ?」
「どうせ飯なんて作れないだろ、最初は掃除係からだ」
 本当は炊事当番から始めるがこの船のルールだったが、変なものを食わされては困る。
 コアドリルでカミナの手足の縄を切る。無造作に振るったから少しは傷がつくかと思ったが、どうやら縄の痕だけで、切り傷はない。驚いて己の手首をカミナは見詰め、アバンは自分の心に問うた。
 まさか殺してやると言ったすぐ後で、彼が傷つかないように手加減したわけではないだろう?
「今日からおまえをこの船で働かせてやる。不満なら今すぐ出て行って野垂れ死ね」
 それなら俺もシモンに殺されなくて済むからな、と言って翻すマントが突っ張ってアバンの歩みを止めた。振り返るとカミナが裾にしがみつき、震える声で言っていた。
「とんでもねえ! 命を助けてもらえただけでありがてえのに仕事まで……!」
「……」
 もしもこの男がまだ真っ当になる可能性があるとして。
 自分を艦長と呼ぶカミナを、アニキと呼んで愛せるか?
 シモン=ジーハなら即答しただろう問いに、シモン=アバンは考える。『アニキ』は『シモン』に動機を与え、『シモン』は『アニキ』に信頼を与えた。この男の口車に乗ったとして、一体どこに連れて行かれる?
「……したいことはあるか。行きたいところは」
 答えろ、と強い調子で促すと、カミナはすぐに答えた。
「月だ!」
 確かに艦長室からは月がよく見えたし、おりしもその日は満月だった。黄色い球体が薄い雲に透けて、ぼんやりと光っている。雲が晴れては明るすぎる、柔らかな光が目に痛かった。
「……月、ね」
 思わず口の端が歪んだ。他の多元宇宙でその恒星がどんな役割を持っているのか知らないくせに、よくまあ行きたいだなんて口にする。
 アニキに会いたいとどのシモンも恋がれずにはいれないように、月に行きたいと思うのが人類の必然なのか。
 もしくはその逆。人類が月に行きたいと願うなら、シモンがアニキを欲しいと願う。これは真か?
 コアドリルを握る。振りかぶって、カミナにかざす。よく磨かれたドリルの先端は鈍く光ったが、鋭く回ることはなかった。
「……アバン、隊長?」
 カミナが怯えて見上げるのに、舌を打ってドリルを下ろす。アバンの手の中でコアドリルは小さく縮み、それで良いのだというようにヴンと光った。





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2013.9.19.
またシモカミを書くことになるとは思わなかったのですが、
ドラマCD「男の条件」聞いたらアバン様の高笑いにやられました。
ナチュラルに様付けしちゃうくらいかっこいい。