視界の端に見慣れた銀縁眼鏡が映り、西郷は視線をそちらに向けた。彦根新吾は足早に人混みをかきわけて、小柄な女性に話しかける。そのとろけるような笑顔を最後に、西郷は二人から目を離して溜息を吐く。
「やあ、西郷教授。どうしたの景気の悪い顔しちゃってさ」
「白鳥さん」
 西郷が振り返ると、短躯を高級スーツに包んだ無粋な男が気さくな笑顔で立っていた。厚生労働省の白鳥だ。西郷や彦根、それから彦根が声をかけた桧山シオンを、この会議に呼んだ張本人。
 白鳥も彦根に気付き、
「あ、彦根じゃん。元気そうだね」
「元気すぎますよ」
 西郷の吐いた溜息は重かったが、そうかな、と白鳥は頓着してくれなかった。はあ、ともう一度西郷は溜息を吐く。
 視界を転じれば、シオンに並ぶ彦根は相変わらずの笑顔だ。聞こえないが、その口から流れ出る言葉の束をおとなしく聞いているシオンは、こういう場での常通り無表情だ。
 これが彼らの辿り着いた形だ。厚労省に蛇蝎のごとく嫌われるヤマビコ・ユニット、その二度の解散を経ての、最後の復活。
「あれ、どうにかなりませんかね」
「まあいいじゃない」
 うんざりしている西郷と対照的に、白鳥はあっけらかんと笑う。
「せっかくあいつが素直になったんだからさ、喜んであげようよ」
「でも、会議では相変わらずのスカラムーシュなんですよ」
 会議性人格障害だね、と自分がそう呼ばれていることも知らずに、白鳥は難しい顔をした。





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2014.01.11.
麻耶クラ土下座オフで書きました。
この頃まだスラムン連載が終わっていなかったので、ヤマビコの行方がすごくすごく不安でした。
復活おめでとう。