「……あれ、どうしたヒグチ、食べないのか?」
 ぎっくー。
 顔を上げて、目の前に座る笛吹さんを見る。特に俺を責めるでもなく、じっと見詰められている。
 笛吹さんのこの邪気のない視線が苦手だと時々思う。まるで無垢な子供のようで、罪悪感を刺激されるのだ。
 けれど今はそれどころではない。
「好きじゃなかったか? オムレツ。前に食堂で食べてたろう?」
「あ、うーん、あんまり腹減ってないんだ」
「さっきまでおいしそうって喜んでたじゃないか」
 さっきまではね。と、声にはしない。
「風邪か?」
 ひょい、と笛吹さんが軽く身を乗り出して俺の額に手を当て、もう片方の手を自分の額に当てる。
「ちょっと熱があるんじゃないか?」
「……そうかなー」
 そうだろうね、そうだろうと思うよ。突然接触されて体温が上がっていくのをひしひしと感じます。顔が熱いです。耳まで赤くなってるんじゃないの? 俺。
「やっぱり熱あるな……もう寝ろ」
「だっ、大丈夫だって!」
「どこがだ」
 だってあなたを見てたら食欲なんてなくなってしまっただけなんだから。










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2009.08.16.
お題の食欲不振のために書こうかと思ったものの、
ヒグチと一緒に私も恥ずかしくなってしまったのでここまでで。
ヒグウスは日常がいちいち可愛い。


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