アニメ天元突破グレンラガンのシモン×カミナですがカミナ一切出て来ません。
9話最初らへんの鬱シモンです。





 ずっと土を掘っていた。胸のドリルはいつの間にかどこかで落としていて、素手の爪の間に土が入り、指紋の土の零れる暇もないほど延々と掘っていた。最初は天を指していた長剣は支えの土山が崩れたために大きく傾いて、今では柄さえも汚れていた。風にたなびいていた赤いマントは血潮のように土の上に広がり、顔を照らす夕陽が目の前にあるかのように錯覚させる。その血色に気が狂わんばかりになって、ただ一心に土を掘っていた。
 この下には彼が眠っている筈である。雨の中を人の手で土を掘り、人の手で彼の亡骸を運んで埋めた。自分は掘ることも埋めることもできずに彼の亡骸に取り縋って泣いたり喚いたり一緒に眠ったりしていた。彼が土の下に埋まってしまう前にヨーコやキタンが自分を彼から引き剥がしたが、その頃にはもう疲れ果てて抗う気も起きなかった。すぐに眠った。彼の顔が土の下に隠れる直前を俺は知らない。
 雨が止んだとヨーコが教えに来たが、部屋から出なかったからそんなことは知らない。彼に褒められた自分の唯一の特技であるドリルで彼の像を作っているうちに、あることに気が付いた。俺達が埋めたのは、あれは本当にアニキの亡骸だっただろうか。アニキは俺を騙していたんだ。みんなもそれに手を貸したんだ。きっとそうに違いない。
 そうなればアニキはまだ生きたままあの下にいるのかもしれないから自分が迎えに行ってやらなくてはならない。むしろ彼はそれを待っているのに違いない。
 みんなの目を盗んで外に出るのは簡単だった。誰も俺が部屋から出るなんて考えていないのだから当たり前だ。念の為に出る前に一つだけ自分の像を作って置いていったが、こんなことならアニキの像を掘れば良かった。部屋に戻ればいくつものアニキの像が俺を迎えてくれると思うと嬉しくて泣きそうになったが、そのときにはきっとアニキを連れて帰るんだから泣いてはいけないと強く自分を戒めた。
 久しぶりに外に出るとあれほど降っていた雨は一滴も落ちてこなかった。空は晴れて青かったけれどただ眩しいだけでまったくいい迷惑だ。記憶を頼りに彼の埋められた場所に向かった。ひたすらに歩いた。足の裏にまめが出来ては潰れていった。膝の裏がじんじんと傷んで踏み出すごとにがくりと揺れた。ようやっと目印に立てた彼の長剣とマントを見つけたときにはその前に跪いて荒くなった息を整えた。日は傾いてこのときにはもう燃えるような夕暮れだった。
 それから随分時間が経って、太陽はとうに落ちて辺り一面は土と空間との区別がつかない。だから目の前に手を出して、かき分けて、後ろに投げる作業をすることだけを考えた。時々汗が目に入るのを上着の袖で拭う他は手を止めずに機械的に作業を続けた。上着の袖には彼のマントの切れ端が巻いてあるのでそれを思い出すと心強く、それだから汗を拭うのは水を飲んで体を癒すように心を潤した。
 なのに掘っても掘っても一向と彼に出会わない。どうやら随分深く埋めたらしい。そんなことをしてアニキが死んでしまったら一体どうしてくれるのだろう。いや、死んだからいくら深く埋めてもいいのだったか。よくわからなくなってきた。手は考えないから掘り続ける。そうだ、俺も考えるのをやめてしまおう。
 掘って掘って掘り続けた。ドリルがないというだけで掘るのはこんなに大変だったのか。石の声も聞こえないし腕なんかもう棒のようだ。なんでおまえだけそんなに掘れるんだよ、とジーハ村でよくいじめられたのを思い出し、みんなもきっとこうだったのだろう、確かにこれでは自分はずるをしていると思われても仕方がない、とぼんやり思った。
 掘った穴の丈はもう身長の二倍にもなるだろう。指先も腕も感覚がないので肩を動かすことを考えて無理矢理にでも掘っていた。発汗を止めた体に残った汗は体を冷やす。冷え冷えと見下す土の壁に囲まれてがちがちと震えながら、朦朧とする意識を叱咤してひたすらに掘っていた。足は体を支える力もなく、大分前に力尽きていた。不思議とその足は接した土から暖かさを感じていたから、きっとこの下にアニキがいるに違いないと思ってただただ掘っていた。
 目の前の土の壁がぐらぐらと揺れる気がする。きっと目の錯覚だろう。上瞼はさっきからしきりに下瞼とくっつきたがっているし、どこを見ても土ばかりだから焦点は合っているのかいないのかわからない。下を向いて自分の手を見詰め、ぱちぱちと瞬きをして、焦点を合わせる。それから前を向いて土の壁と向き合う。やはり上のほうが少し揺れている。ぱらりぱらりと砂が落ちる。これはなんだろうと、土を掘り始めてから初めて上を見上げた。
 ぽかりと空いた丸い穴からは無数の星が光っているのが見えた。深く優しい群青の空はシモンをいたわるように絶えずどこかで瞬いている。
 あれは全部アニキなのかもしれないと、その思いつきは酸素の足りない頭に鮮明に残った。
 呆けて見上げているとやはりぱらりぱらりと砂が落ちてきて目に入った。両腕の袖のまだ泥が付いていないところをなんとか探して目を擦った。すると上からさらに砂が落ちてきて、せっかくこんなに掘ったのにと、何をかわからないが睨むために見上げると、マントをはためかせながら彼の長剣が落ちてきて、頭にぶつかった。目の前に星がちかちかときらめいた。これもアニキだろうか、綺麗だなと手を伸ばそうとしたが、限界まで酷使した手はもう少しも動いてはくれなかった。俺はアニキを取り返しに来て、何一つこの手に掴めないのか。土の上に無造作に倒れた体の前には彼愛用の剣とマントがあった。きっとこれを持って帰ろうと思ったが最後、意識を失った。
 閉じた瞼の上からでもわかるほどに眩しい光と、どうやらおぶられているらしい規則正しい揺れに目を覚ました。
「シモン!」
 目を開くとそこには目に涙を溜めたヨーコの顔があった。誰も死んだわけでもないのにどうして泣いているんだろうと不思議に思う。またシモンと呼ばれるので、見ると自分を背負っているのはキタンだった。俺をおぶってくれるのはもうアニキではないのかと知って慄然とする。
 慌てて振り返ると彼の墓は遠く、マントがひらひらと揺れるのが豆粒のように見えた。まさか全て夢だったのだろうか、と思ったが、どうやら長剣は土の上に横たえられているだけのようでほっとする。全て夢だったなら、こうして自分が生きているのが夢で、彼が生きているのが本当でなければきっとおかしい。
 それにあの剣とマントは自分が持って帰りたかったのだ。今から戻ってくれと言って果たして通じるだろうかと考えていると、泣きじゃくりながらヨーコが言う。
「あんたまで死んじゃったかと思ったのよ!」
 いっそ死んでしまえば良かったのだ。そうしたらアニキに会えたのに。





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2013.3.14.
初シモカミがとんだ鬱になりました。
でもこのあときっとニアと出会うからいいですね!