書物の静謐に満ちたこの図書館に入ると、ネアポリスの最奥に来たな、といつも思う。古い木製の扉を開くと埃の混じる空気がブチャラティの体を包み、扉を閉じると外界の喧騒が遮断される。なるほど良い場所だな、と思い、それから溜息を吐くのもいつものことだった。こんなところに引きこもって、あいつは何をしているんだか。
「勉強に決まっているじゃないですか、ブチャラティ」
 ブチャラティの背の倍以上もある書架の向こうから、よく知っている声が聞こえる。声の聞こえる方へと微妙に進路を修正して少し進むと、備え付けの勉強机が本棚の陰から覗き見えてくる。イタリア中の叡智の結晶とも言えるこの場所の雰囲気に圧倒され、気付かぬ内に潜めていた息を緩く吐き出す。
「人の心を読んだようなことを言うな――」
と小言を言いながら角を曲がり、ブチャラティはまた溜息を吐いた。
 ジョルノ、と続けようとしていた彼の名前を呼んでから、年長者らしい威厳を持って言う。
「机の上に座るんじゃあない。それに、勉強なんてしていないじゃあないか」
 ブチャラティの言葉を受けて、ジョルノ・ジョヴァーナはにこりと笑う。複雑に編まれた金色の髪、改造された学生服。それ以上に彼の纏う雰囲気こそが彼から学生らしさを奪っていたが、そうやって笑うと年相応に幼く見える。本人もそれを自覚しているのが、こいつのタチが悪いところだ。
 机の上に座り、背後の本棚にもたれかかりながら、笑ったジョルノは右手をひらひらと振ってみせる。手の中には分厚い本がある。
「嫌ですねブチャラティ、あなたほどの人がそんな早合点をするなんて。僕は本を読んで勉強をしていたんです。姿勢なんてどうだっていいじゃないですか」
「おまえは俺に何回溜息を吐かせるつもりだ?」
 はあ、とわざとらしさを意識して溜息を吐いてやると、おやおやとこちらもわざとらしく、若いボスは眉を釣り上げる。
「ごめんなさいブチャラティ、僕はそんなつもりじゃなかったんです」
 しおらしく言うのは悪い兆候だ。こういうときのこいつは裏腹に、とんでもないことを考えていると経験が物語る。
 怪訝に眉をひそめて睨むブチャラティを例の笑みで牽制し、よっと声を上げてジョルノは机から降り立った。ブチャラティより少しばかり低い体躯が前に立ち、降り立った反動を利用して爪先立つ。掠めるようなキスだった。
 ブチャラティの首に手を回し、引き寄せながらジョルノは囁く。
「僕はあなたが迎えに来てくれるのが嬉しくて、ここに閉じこもってしまうんですよ」
 嘘を吐け、と言いたかった唇は、ジョルノの唇に深く閉ざされた。





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2014.06.13.
初ジョジョ2次だ〜原作自体すごく好きなので書いてて楽しかったです。
5部全部終わった後のif。
学生らしく図書館で勉強するジョルノを、ブチャラティが迎えに来る話。