「――― 可哀相な生き方をしているね、君は。」
蹴られ殴られ、埃塗れになったセブルスに、当たる光が消えたと思えばそこにはジェームズが立っていた。
榛色の瞳。うっすらと笑んでいて、まるで憐れむような。
「……いつから見ていた」
「最初から。君が彼らに盾突くところから」
「僕は正論を言っただけだ」
そうだね。ジェームズは肩をすくめる。
「そんなことは彼らにだってわかっているさ」
「だから僕が気に入らないというのか? 付き合っていられない」
「人間の会話が機械のように正確である必要はないさ。――― それに機械でさえミスをする」
「だが僕は他に言葉を持たない」
知ってるよ、とジェームズは小さく答える。
「ねえ君」
「……」
「もっと上手に流されなよ」
そう言って、ジェームズは踵を返した。阻むものがなくなって、光はセブルスに直進する。
「……ああ、それもいいかもしれないな」
けれど自分はそうしないだろう、絶対に。セブルスはそれを理解していた。ジェームズも理解していた。光に目の奥を焼かれるような感覚を得て、セブルスは堅く目を瞑る。瞼の裏の残像に意味を探すのは、あのふざけた占い学と同じだ。だがセブルスには確かにジェームズが見えた。――― 忌々しい博愛主義者。
僕のような偏愛主義者のほうがよほどましだ。彼は誰も幸せにしない。けれど僕の愛した人は幸せだったろうか。
思考を止めた。梔子の花の香りがする。強い花の香りは魔法薬の材料にもなるが、セブルスは梔子を扱ったことはなかった。その白い花は善きことのまじないに用いられるのだから。
どこから香ってくるのだろうか。たとえわかったとしても、セブルスは行ってその花を手折ることはしない。
例えばそれは天国のような場所だろうか。ホグワーツに天国などないのだけれど。
その花を手折る人は天使のように笑むのだろうか。摘まれた花の生命は終わるのだけれど。
しかし、それにしても、どこから香ってくるのだろう。
部屋に帰ると、机の上に梔子の花が置かれていた。
死者への手向けのようだった。
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2008.09.18.
梔子の花言葉は「私は幸せです」「喜びを運ぶ」
ジェームスはセブルスに幸せを運んだつもり。
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