いつか殺してやる。
彼の目がそう言いながら私を睨んだ。
ああ、その目!
私はうっとりと目を細める。
私だけを映し、私だけを想う彼の眼差し。硬く握られた拳。暗い欲望。
私だけに向けられた殺意。
私は歓喜に胸を震わせる。
恋情よりも一途で、愛情よりも激しい。その想いに我が身を委ねるときを夢に見る。
刃で、紐で、毒で。
彼が、私を、殺す。
なんと甘美な結末だろうか。いや、それは始まりに過ぎない。私を殺したその手を見詰め、彼は興奮の内に自問する。
――僕は誰を殺したのか?
私の名を、顔を、声を、彼は決して忘れない。
今、私の前には一通の招待状がある。
因縁の殺人パーティー。
彼は付いて来るだろうか? 今度長編の締め切りがあるとか言っていたっけ。
「メルカトル先生、美袋さんがいらっしゃいました」
インターホンを通じて昭子君が告げる。通してくれと私は返す。
このインターホンはあと何回鳴るだろう。
ゆっくりと扉が開く。
さて、彼の殺意は育っているだろうか。
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2012.02.29.
メル→美袋。
水難と名探偵の自筆調書より。