訪れるのはいつも唐突で、持ってくるのは悪い知らせに決まってる。それなのにアバンは悪びれた様子もなく、にやにやと笑ってこんなことを言う。
「良いニュースと悪いニュース、どっちから聞きたい?」
 ニュースだなんてとんでもない。宇宙の次元が違えば時系列もばらばらで、彼の世界で最新ニュースでも、こっちの世界では古新聞なこともある。俺は苦い顔をして溜息を吐き、先に良い方をと所望する。
 オーケーとアバンは軽く請け負って、
「明日人類は死滅する」
と最悪のニュースを告げた。





 明日って? 問うとアバンは確かに、この宇宙での明日にあたる日付を諳んじる。
「理由は?」
「隕石の衝突かな」
「螺旋族は関係ないの?」
「今回は」
「それのどこが良いニュースなんだ」
「これでおまえも俺と同じ一人きりってわけさ、総司令」笑う口元の明るさとは反対に、瞳は昏く光っている。「俺にとっては最高のニュースだよ」
 つまり、死ぬ人類の中に俺は含まれてはいないらしい。殴る寸前にそれに気付き、重心を戻しながら、
「俺はどうやって脱出すればいい」
 同じ方法でみんなを逃がせば助けられるかも。そんな希望を、たやすく打ち砕くのがアバンという男だった。
「俺が逃がしてやる」
「どういうこと」
「こっちに来いよ。二人で楽しくやろうぜ」
 革の手袋を嵌めた右手が、目の前に差し出された。
 アバンの世界にカミナはいない。ニアもヨーコもロシウも誰も。たった一人だ。だだっ広い宇宙空間で、たった一人。時を選ばず襲ってくる敵を退け、司直の手を逃れ、一人の戦艦で宇宙を駆ける。彼の背中を慕って付いてくる人間や獣人が一人ふたりと部下になり、けれどそれは彼に満足を与えない。他の宇宙のシモンに与えられるものがアバンには与えられないものだから、数多の敵を殲滅する最中、彼が本当に滅したいのは、他の宇宙に違いないのだ。
 彼が隕石を降らせることはできるかしら? 少し考えて否定する。喉から手が出るほどこの宇宙のあれやこれやが欲しいアバンは、自分ではそれを壊すことはできないのだ。
 ふと、気付いた。
「……悪いニュースは?」
 遅えよ、とばかりにアバンは鼻で笑った。
「今のがそうだ。俺にとっては良いニュース。おまえにとっては悪いニュース。だろ?」
 差し出した手を戻さずに、アバンは俺の目を覗き込む。さっきまで好戦的ですらあったその目はとうに優しく穏やかに微笑んですらいるようで、そうしていると毎朝鏡の中で会う自分の顔に、よく似ていた。礼服に隠してじとりと湿った俺の背中を汗が落ちる。天井まで届く背負った窓の向こうで、宇宙船の軌跡が白く空を二分した。





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2014.01.19.
麻耶クラ土下座オフで書きました。
アバン×総司令のシモシモ。
百年の孤独に耐えかねて、他の宇宙のシモンを誘うアバン。