きっかけは、要のこんな一言だった。
「僕、酔ったことってないんだよね」
それなら、と琴宮の酒豪に付き合ってもらうことにして家に招き、酔うことを期待して次々と杯を満たした。
要の顔色は一向に変わらず、話す内容も筋が通っていて酔う気配がない。これは本当に酒豪だな、と琴宮は自分のことを棚にあげて感心した。
夜も更けてしばらくした頃、要が随分近くにいることに気がついた。
初めはソファに隣同士で座っていたのだが、今は腕が触れ合い、要の柔らかい髪が肩をくすぐる。ほとんど同じ背丈の要の頭がその位置にあるのは、要がもたれかかっているからだ。
「どうしたんだい」
声をかけると、要は顔を上げて微笑んだ。唇が合わさったと思うと、それよりも柔らかな舌が琴宮の唇を割り、その舌を捉えて絡んだ。唾液が重くまとわりついて要の舌の感触をより確かにした。顔を離すと、二人の間で唾液が糸を引いた。
「要?」
よく見ると、目が潤んでいる。頬も少し赤いかもしれない。もしかして酔ったのか?
要はにこっと笑うと、もう一度とばかりに顔を寄せる。琴宮は軽く唇を啄んでそれに応えると、要の頭を撫でた。
「酔ってるだろう」
「酔ってないよ」
「そう答えるのが何よりの証拠だ」
そんなことないよ、と少し舌足らずな口調で言いながら、要が琴宮の胸に顔を埋める。その手はしっかりと琴宮の背中に回されている。琴宮はもう一度要の頭を撫でた。それに反応したように要が顔を上げ、キスをする。さっきよりも濃厚な、脳の髄まで溶かすようなキス。
――キス魔か。
琴宮は要の肩を押さえると、体を反転させた。ソファに押し付けられた要は、自由にキスができなくなって不満そうに唇を尖らせる。
「キス、嫌いだっけ?」
「好きだね」
「じゃあなんで?」
「君が記憶をなくすとつまらないから」
琴宮の言葉に、そんな経験もないだろう要は不思議そうにきょとんとする。本当に、酔ってなければね。琴宮は指の背で要の頬を撫でた。それにもきょとんとしている要に微笑んで抱きかかえ、むずがるのに構わずベッドへ運ぶ。
「おやすみ、要」
額に口付ける。まだ不満そうにしていたが、柔らかいベッドと温かい毛布に挟まれると、要はすぐに寝息を立て始めた。
その寝顔を見詰めながら、これじゃあ外で飲ませられないな、と琴宮は苦笑した。
翌朝、隣で要が目を覚ました気配がしたので見ると、要はすぐに毛布を目の上まで引き上げた。
「おはよう?」
「………………昨夜はごめん」
「ああ、覚えているのか。さすがだな」
「………………」
「どうした?」
優しく聞いてやると、たっぷり一分は経ってから、要はちらりと毛布から目だけ覗かせた。目の端が赤く潤んでいる。
「……幻滅した?」
そんなことか。
「いや、別に」
「うそだ……」
「本当」
毛布を持つ要の手をとって、手の甲にキスをする。フフ、と知らず笑みが零れた。
「さあ、続きをしよう」
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2012.02.16.
twitterでやった診断メーカーからの連想で、
酔うとキス魔になる要さんのお話。
捏造に次ぐ捏造。原作読んでも怒らないでください。。