珍しく美袋くんがケーキなんか買って帰ってくるものだから、私はソファに座ったまま彼を見上げて、まじまじと見詰めてしまった。美袋くんはぶっきらぼうに「安かったから」と言ったきりだ。どうやら照れているらしい。
「……毒でも入ってるのか」
「入ってない!」
怒鳴るといつもの調子を取り戻したようで、買わなきゃ良かった、とかぶつくさ良いながら乱暴に包装を解いていく。過剰包装された中から現れたのは気品ある光沢を放つザッハトルテ。生クリームを添えるとさらに美味い。
「おいしそうだ」
「そりゃ良かった」
少しは機嫌が直ったらしい。美袋くんはすとんと、私の隣に腰を下ろす。そわそわと;落ち着かなさげにするから、仕方なく私から水を向けようとしたタイミングで、ようやく口を割った。
「……今日で一年だろ」
私はわかりやすく、ぽんと手を打って返事に代える。
一年前の今日から、私達は一つ屋根の下で暮らしている。いわゆる同棲というやつだ。私達には法律上の結婚はできないから、事実上これが結婚ということになる。
きっかけは、美袋くんが学生時代から住んでいる安アパートの取り壊しが決まったこと。私が「じゃあうちに来るかい」と尋ねると、彼はヒモみたいだとさんざんごねたので、結局私の事務所の近くに新しく部屋を借りて、二人して引っ越したのだった。
もう一年になるのか。月日が過ぎるのが速かったと言えば惚気になるのだろうか。
それにしても、美袋くんが覚えていたのが意外だった。作家である彼にとってカレンダーにあって必要な情報は締め切りだけなので、たまに何月かすらわからなくなっているくらいなのだ。その上彼は普段から物覚えが悪い。
「まさか君が覚えていたとはね」
からかうと、今度は拗ねたように「僕だってそれくらい覚えてる」とのたまう。さらに追及してやろうかとも思ったが、私の肩を抱き寄せるので勘弁してやる。
「一年間ありがとう、メル」
「こちらこそ」
早く食べないとチョコが溶けるな、と思ったが、キスの後に言うことにする。
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2011.11.22.
いい夫婦の日で美メル。
我ながら捏造甚だしいです。